国家権力の暴走から私たち国民を守るためにある憲法。自民党はそんな憲法の改正を狙っています。
自民党の作成した憲法改正草案を確認してみると八十三条二項に「財政の健全性は、法律の定めるところにより、確保されなければならない。」との一文が追加。自民党は憲法にまでプライマリーバランスの黒字化を書き加えようとしているのです。
しかしプライマリーバランスの黒字化は増税や歳出削減を意味します。つまり私たち国民の可処分所得は減り、さらに経済状況が苦しくなっていくことになります。
普段の生活の中で憲法を意識している方は少ないでしょう。しかし私たちの自由や権利は日本国憲法によって保障されています。
日本弁護士連合会では憲法は国民の権利や自由を守るために国がやってはいけないことについて国民が定めた決まりのことと説明しています。私たちは思想良心の自由や移動の自由、表現の自由や学問の自由。生存権や財産権の保障、参政権など多くの権利が憲法により保証されています。
法律は国民を縛るものであるのに対し、憲法は国家を縛るためのもの。憲法に違反する法律はすべて無効となります。私たちの暮らしを陰で支えている。それが憲法と言えるでしょう。
そもそも憲法とは国民を縛るためのルールではなく国家権力の暴走に歯止めをかけるためにあるものです。
現行の日本国憲法ではさまざまな権利を「犯されない」と明記していますが、自民党の憲法改正草案では「保証する」という表記。現行憲法では基本的人権は生まれながらにして当然持っているものであるという前提ですが、自民党の憲法改正草案では基本的人権は国家が保障するものであることを意味しています。
その時点で自民党は憲法の存在意義をはき違えているように思います。
財政健全化というと聞こえが良いですが、財政を健全化すると言うことは増税や歳出削減などを行い、民間から貨幣を吸収することを意味します。つまりただでさえ厳しい日本の経済状況はさらに地に落ちていくことになります。
それを憲法に書き込むとどうなるか。年金の支給を財政健全化を理由に削減したり、消費税などの各種税金の増税を財政健全化を理由に正当化できてしまいます。
しかし当サイトでは何度もご説明させていただいてきているように税は財源ではありません。税は政策調整のためにあるものです。
財務省ホームページの中で「税の意義と役割を知ろう」という資料が公開されています。その資料を確認してみると「税は社会の会費」と説明。また同時に公的サービスを提供するための財源であると記載されています。
しかしそれは間違いです。税金は政策調整のためにあるのであり、財源ではありません。
たとえば所得の再分配機能を持つ所得税は格差を是正し、ビルドインストビライザー(自動安定化装置)機能を持つ法人税は赤字企業からは徴収せず、儲かっている企業から少しだけ分け前をいただく仕組みになっています。
そのほかにも健康を害する喫煙を抑止するためにあるタバコ税や酒税など、やってほしくない行動に対して課税することで抑止する効果も持っています。
このように税は財源としてではなく、景気を調整したり推奨すべきではない行動に対し課税することで抑止力を働かせるためにあるものなのです。
そういった意味で消費税は景気が良いときも悪いときも、経済状況が良い人も悪い人も一律に課税されることからビルドインストビライザーの機能もなく、景気を冷ます政策調整手段であることからいまのコストプッシュインフレ時に課税すべき税金ではないのです。
「国家は破綻する」という本を出版した藤巻健史氏や「絶対に受けたい授業 国家財政破綻」という本を出版した鳥巣清典氏が言うように、本当に日本はこのままだと財政破綻してしまうのでしょうか。
結論、日本が財政破綻することは100%あり得ません。なぜなら日本は自国通貨を保有しており、政府が55%出資している日本銀行に通貨発行権があるからです。
自国通貨建て国債の破綻は100%あり得ません。考えられるリスクとしてハイパーインフレがありますが、これも財務省のホームページにて「ハイパーインフレの懸念は0に等しい」とはっきり否定しています。
日本国債の内訳を確認してみると日本銀行からの借入が46.3%、銀行等からの借入が14.6%、生損保等からの借入が17%、公的年金からの借入が3.7%、年金基金からの借入が2.5%、海外からの借入が13.8%、家計(民間)からの借入が1.1%、その他から0.8%、一般政府からの借入が0.1%となっています。
しかしそのうち日本政府が55%出資している日本銀行からの借入は連結決算により借金ではありません。親子間の貸し借りと同じ状態なのです。そのほかにおいてもすべて日本円建てで借り入れています。
日本政府は日本円を発行することができる日本銀行を配下に置いており、国債はすべて日本円で借り入れていることから政府が国債の償還に困ることなど一切ないことが分かります。
国債の残高を日本の人口で割り国民ひとりあたり985万円の借金があるなどと不安をあおる方も多いですが、国債の残高は通貨発行したお金の総量でしかないため全くもって問題はありません。
日本は円安などの影響もあり世界一の対外純資産を保有しています。2022年度末の日本の対外純資産は418兆6,285億円。国民ひとりあたりに直すと344万円もの純資産を保有している計算です。
もちろん対外純資産は政府だけでなく企業や個人などの資産や負債を総合して算出されるものなので政府の債務残高と対外純資産を一概に比較することはできません。
ですが、そもそも自国通貨建て国債の国が財政破綻することなど考えられません。そのうえ国全体で見たときにこれほどまでに多くの対外純資産があるのですから、日本が財政破綻することなど考えられないのです。
財政健全化とは政府支出をすべて税収のみで賄おうとする考え方です。つまり増税や歳出削減などを行い通貨発行することなく国家を運営していくということ。わかりやすく言い換えれば民間から資産を吸い上げていくことを意味します。
しかし経済は私たちが消費活動を行うことで成長していきます。
税金として政府にお金を吸い上げられてしまえば可処分所得が減り消費意欲が低下。すると企業は価格を下げざるを得ず負のデフレスパイラルに。デフレになればなるほど企業の収益は低下し、私たち労働者の賃金も下がる結果になります。
そうなればもちろん税収も減っていくことになり、財政健全化を理由としてさらに増税や歳出削減を行うことになります。するともちろん私たちの可処分所得はさらに減ることになり、さらにデフレが深刻化していくのです。
つまり、財政健全化こそ財政を悪化させます。政府が財政出動を行い民間に通貨を供給することで需要が生まれ、それに伴い供給も増えていきます。このような状態になれば増税など行わなくても自然と税収は増えていくものなのです。
長年誤った政策を行い続けてきた結果が失われた30年であり、今こそ政府は従来のやり方を根本から見直していかなければなりません。
いかがでしたでしょうか。この記事では自民党が憲法改正草案に財政健全化を明記しようとしていることについて解説させていただきました。
これまでにご説明させていただいてきたように憲法に財政健全化を書き込むことなど絶対にあってはなりません。財政健全化を憲法に明記することは国民自らが「増税をしてほしい」「もっと歳出削減してほしい」と言っているようなものなのです。
憲法の改正には反対しません。しかし自民党の憲法改正草案のような国家主体の憲法には断固反対します。憲法は国家権力から国民を守るためにあるものであり、それに反するような憲法の改正には断固反対していきましょう。