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インボイス制度で益税はなくなる?「益税」の正体を事実とシミュレーターで検証【2026年最新】

更新 情報の基準日 2026年11月6日 この記事は約20分で読めます
インボイス制度で益税はなくなる?

「益税(えきぜい)」という言葉を聞いたことがありますか。消費者が払った消費税の一部が、納税を免除された小さな事業者の手元に残っている——そんなイメージで語られる言葉です。インボイス制度の話題でも、「益税をなくすための制度だ」という説明を見かけます。

では、実際はどうなのでしょうか。この記事では、「益税」とは何かを制度から確かめ、国会で政府が何と答えてきたか、裁判所がどう判断したか、そしてインボイス制度で益税はなくなるのかを、一次資料と、あなた自身が数字を動かして確かめられるシミュレーターで検証します。

インボイス制度は2023年10月に始まり、2026年10月には経過措置が切り替わりました。いま小さな事業者に何が起きているかも、あわせてまとめています。

制度の事実と、タックスレンジャーの見解は、囲みの色を分けて書いています。インボイス制度に賛成する立場の主張も紹介しますので、判断する材料にしてください。

  • 「益税」とは何か、どんな制度から生まれるのか
  • 「益税」の正体をシミュレーターで体験
  • 裁判所と国会(政府)は「益税」をどう説明してきたか
  • インボイス制度で益税はなくなるのか(残されている簡易課税)
  • 2026年11月のいま、小さな事業者に起きていることと、できること

「益税」とは?免税事業者と簡易課税、2つの仕組み

「益税」は、法律の用語ではありません。一般には、消費者が払った消費税のうち、国に納められずに事業者の手元に残る分を指して使われます。税制調査会(政府の諮問機関)は2002年の答申で、事業者免税点について「消費者の支払った消費税相当額が国庫に入っていないのではないかとの疑念を呼び、これが消費税に対する国民の不信の大きな背景となっている」と指摘しました。

「益税」と呼ばれるものは、主に次の2つの特例から生まれるとされます。どちらも、小規模な事業者の事務負担に配慮した特例です。

① 事業者免税点制度(免税事業者)

  • 基準期間(個人は前々年)の課税売上高が1,000万円以下の事業者は、原則として消費税の納税義務が免除されます。
  • 前年1〜6月(特定期間)の課税売上高が1,000万円を超えた場合や、インボイス発行事業者として登録した場合は、免除されません。

② 簡易課税制度

基準期間の課税売上高が5,000万円以下で、届出をした事業者は、実際の仕入れ額にかかわらず、売上にかかる消費税額に「みなし仕入率」を掛けた額を、仕入れにかかった消費税として差し引けます。

区分主な業種みなし仕入率
第1種卸売業90%
第2種小売業、農林水産業(飲食料品の譲渡に限る)80%
第3種農林水産業(飲食料品以外)、鉱業、建設業、製造業、電気・ガス・熱供給・水道業70%
第4種第1〜3種、第5種、第6種以外の事業(飲食店業など)60%
第5種運輸通信業、金融・保険業、サービス業(飲食店業を除く)50%
第6種不動産業40%

どちらの特例も、導入時より対象が狭くなっています。免税点は創設時の3,000万円から1,000万円へ、簡易課税の上限は創設時の5億円から段階的に下がって5,000万円へ。いずれも2003年度の税制改正で見直され、2004年4月に施行されました。

出典:国税庁「No.6501 事業者免税点制度」、国税庁「No.6505 簡易課税制度」、財務省「消費税の中小事業者に対する特例措置の推移」、税制調査会「平成15年度における税制改革についての答申」(2002年11月)

【体験】「益税」の正体シミュレーター

「益税」と呼ばれるお金は、いくらで、どこから生まれるのでしょうか。免税事業者と簡易課税、2つの場合で確かめてみましょう。

「益税」の正体シミュレーターのしくみ

  • わかること:①免税事業者が、10%の消費税分を上乗せした価格で売っている場合に、手元に残る額。②簡易課税を選んでいる事業者が、本則課税(実際の仕入れで計算する原則的な方法)より少なく納める額
  • 計算式:①手元に残る額=(売上−仕入れ・経費)× 10/110。②本則課税=売上 ×(1−実際の仕入れ率)× 10/110、簡易課税=売上 ×(1−みなし仕入率)× 10/110
  • 初期値:①売上600万円(税込)・仕入れ150万円(税込)。②第5種(サービス業)・売上3,000万円・実際の仕入れ率20%
  • 注意:税率10%、仕入れ・経費はすべて課税仕入れとした簡易計算です。軽減税率、非課税の取引、人件費、2割特例・3割特例は考えていません
体験してみよう

「益税」の正体シミュレーター

「益税」と呼ばれるお金は、いくらで、どこから生まれるのか。2つの場合で確かめてみましょう。

① 免税事業者(年の売上1,000万円以下の個人事業者など)

材料費・外注費・家賃・通信費など、消費税がかかる支払い。人件費(給与)は入れません。

売上の中の消費税相当額(売上の10/110)

54.5万円

仕入れ先などに払った消費税(免税事業者は差し引けません)
13.6万円
10%分をそのまま価格に上乗せしている場合に、手元に残る額(いわゆる「益税」)
40.9万円

10%の消費税分を上乗せした価格で売っているなら、売上と仕入れの差(稼ぎ)450.0万円の1/11、40.9万円が手元に残ります。課税事業者になれば、この額を納めます(手元に残るお金は450.0万円から409.1万円に)。仕入れで払った消費税分しか価格に反映していなければ、この額は生じません。

② 簡易課税を選んでいる事業者(インボイス登録事業者でも選べます)

簡易課税を選べるのは、基準期間の課税売上高が5,000万円(税抜)以下の事業者です。

本則課税なら納める額218.2万円
簡易課税で納める額136.4万円

簡易課税のほうが少なくなる額(手元に残る差)

81.8万円

みなし仕入率(50%)が実際の仕入れ率(20%)より高いため、本則課税より年81.8万円少なく納めます。

※ 説明のための簡易計算です。税率10%、税込の金額から10/110を逆算し、仕入れ・経費はすべて課税仕入れ(税率10%)として計算しています。軽減税率・非課税の取引、人件費、設備投資、2割特例・3割特例などの経過措置は考えていません。免税事業者の「手元に残る額」は、売上と仕入れの差の1/11で、課税事業者(原則課税)になった場合に納める額と同じです。「益税」の問題が生じるのは、免税事業者が、自分の仕入れで払った消費税の額を超えて価格に上乗せしている場合だけ、というのが財務省の説明です。

①の初期値(売上600万円・仕入れ150万円)では、売上にふくまれる消費税相当額は54.5万円。そのうち13.6万円は、仕入れ先に払った消費税で、免税事業者は差し引けません。手元に残るのは40.9万円で、これは売上と仕入れの差(稼ぎ)450万円の1/11にあたります。課税事業者(原則課税)になれば、この額を納めることになります。

財務省は、免税事業者が、自分の仕入れで払った消費税の負担額を超えて価格に上乗せした場合にだけ、「益税」の問題が生じると説明しています。国会でも、主税局長が次のように答弁しています。

「いわゆる益税と言われるものは、免税事業者の場合でも仕入れに消費税の負担を負って仕入れをしておりますので、それに見合った値づけをしている限りにおいては益税というものは生じない」(住澤整 財務省主税局長、2023年2月17日 衆議院財務金融委員会)

出典:財務省「消費税の中小・小規模事業者向けの特例に関する資料」、衆議院財務金融委員会 会議録(2023年2月17日)

シミュレーターが示すとおり、免税事業者の手元に残る額は、「売上と仕入れの差」の1/11です。仕入れで払った消費税は、免税事業者は差し引けず、そのまま自分で負担しています。

「益税」という言葉は、事業者が消費者のお金を懐に入れているような印象を与えます。しかし実際は、仕入れの消費税を負担したうえで、取引先との力関係の中で価格を決めている小さな事業者が多い——価格に消費税分を上乗せしきれているかどうかは、立場の弱い事業者ほど、簡単ではないとタックスレンジャーは考えます。

裁判所は「益税」をどう見た?消費税をめぐる判決

消費税が導入された翌年の1990年3月26日、東京地方裁判所は、消費税をめぐる国家賠償請求訴訟(平成元年(ワ)第5194号)で判決を言い渡しました。原告は、消費税の納税義務者は消費者で、事業者は徴収義務者だなどと主張し、消費税法の制定は違法だとして国に賠償を求めましたが、請求は棄却されました。

判決は、消費者が事業者に支払う消費税分は「商品や役務の提供に対する対価の一部としての性格しか有しない」から、事業者は「当該消費税分につき過不足なく国庫に納付する義務を、消費者に対する関係で負うものではない」と述べました。

一方で判決は、免税事業者制度が、免税事業者が消費者から消費税分を徴収しながらその全額を納めなくてよいことを「積極的に予定しているものでないことは明らか」とし、免税事業者は原則として、当時の税率3%の全額を上乗せした額で対価を決めてはならないと解されるとも述べています。

出典:東京地方裁判所 1990年3月26日判決(判例時報1344号115頁)。判決の引用は、税総研(租税資料館)賞論文 浅野あずさ「消費税の転嫁に関する一考察」による。

この判決は、消費者が払った消費税を事業者が「預かって」納める、という見方(預り金的な見方)とは違う考え方に立っているとタックスレンジャーは受け止めています。消費者が払うのは、代金の一部です。

ただし、判決は、免税事業者が税額の全部を上乗せした価格をつけることを、制度が予定していないとも述べています。ですから、「益税は存在しない」と言い切るのではなく、「益税」と呼ばれるお金が、消費者から預かったお金ではないこと、そして生じるとしても価格のつけ方しだいであることを、事実として押さえておきたいと考えます。

政府は「益税をなくすため」と言ったのか?国会答弁を確認

インボイス制度の目的について、政府は「複数税率のもとでの適正な課税の確保」と説明してきました。鈴木俊一財務大臣は、2023年2月17日の衆議院財務金融委員会で、インボイス制度は「複数税率の下で、売手と買手の税率の認識を一致させ、適正な課税を確保する上で必要な制度」だと答弁しました。

同じ質疑で、「本音は益税をなくしたいということではないか」と問われた鈴木大臣は、「財務大臣としての立場から、そうだということは申し上げません」と答えています。

日付・委員会発言者要旨
2015年5月14日 参議院財政金融委員会(会議録)佐藤慎一 財務省主税局長インボイス制度により、「いわゆる益税問題などはある程度排除されていく」と述べた
2016年2月22日 衆議院予算委員会(会議録)麻生太郎 財務大臣益税は「許容されているわけではなく」、中小企業者を支援する性格のものではない。インボイスが必要なのは、複数税率のもとで適正な課税を確保するため
2023年2月17日 衆議院財務金融委員会(会議録)鈴木俊一 財務大臣益税をなくすことが本音だとは「申し上げません」。導入の理由は適正な課税の確保

出典:国会会議録検索システム(kokkai.ndl.go.jp)

政府の答弁を読むかぎり、政府はインボイス制度の目的を「益税の解消」とは説明していません。「インボイス制度は益税をなくすための制度だ」という言い方は、政府の公式な説明とは違うと受け止めています。

一方で、過去には、効果として益税の問題がある程度排除されると述べた答弁があり、2002年の税制調査会も免税点を縮小する理由に「疑念」を挙げていました。益税が、制度の背景の一つとして意識されていた可能性はあります。

だからこそ、問いたいことがあります。「複数税率のもとでの適正な課税」のために、小さな事業者に「登録して納税するか、取引条件の悪化を受け入れるか」という二択を迫る仕組みが、本当に必要だったのか。

インボイス制度で益税はなくなる?残される「簡易課税」

  • インボイス発行事業者に登録しても、簡易課税制度は選べます(基準期間の課税売上高が5,000万円以下で、事前の届出が必要)。
  • 簡易課税は、売上だけで納税額を計算する制度で、仕入れでインボイスを受け取って保存する必要がありません。財務省は、この制度を「課税売上高が5,000万円以下の中小事業者の事務負担への配慮から設けられている措置」と説明しています。
  • 令和8年度の税制改正で、2割特例・3割特例を使った翌年から、簡易課税に移りやすくする措置が加わりました。
  • 税制調査会は2002年の答申で、簡易課税制度を「原則廃止することが適当」としましたが、実際の改正は、廃止ではなく、上限を5,000万円に引き下げる形になりました。

出典:国税庁「No.6505 簡易課税制度」、財務省「消費税の中小・小規模事業者向けの特例に関する資料」、国税庁「令和8年度税制改正特集」、税制調査会答申(2002年11月)

簡易課税で生じる差は、「みなし仕入率」と「実際の仕入れ率」の違いです。上のシミュレーターの「② 簡易課税の場合」のタブで確かめてみてください。サービス業(第5種・みなし仕入率50%)で、実際の仕入れ率が20%の事業者が、売上3,000万円(税込)の場合、本則課税より年81.8万円少なく納めることになります。反対に、実際の仕入れ率がみなし仕入率より高ければ、簡易課税のほうが不利になります。

インボイス制度で変わるのは、主に、免税事業者の扱いです。簡易課税は、インボイス制度が始まったあとも、そのまま残されています。

免税事業者に登録を迫る一方で、簡易課税は事務負担への配慮として残す。「益税をなくすための制度」という説明が本当なら、この対応は一貫していないと、タックスレンジャーは考えます。

「増税ではない」は本当か:2,480億円と161万者の試算

2019年の国会で、財務省は、インボイス制度の導入による増収額を2,480億円程度と見込む試算を示しました。農林水産業以外の免税事業者がすべて課税事業者になれば、国税・地方税で0.6兆円程度の増収となり、そのうち4割程度が課税事業者に転換すると見込んだ数字です(2019年3月26日、参議院予算委員会)。

同じ年の衆議院財務金融委員会(2019年2月26日)では、免税事業者の数を約488万者(国勢調査をもとにした推計)とし、農協等に出荷する農林水産業などを除いた372万者に、BtoB取引の割合4割程度を掛けた161万者程度が課税事業者に転換する計算だと説明しました。麻生財務大臣は、増収の見込み額を161万者で割ると15万4千円程度になると答弁しています。

ただし、政府自身が、この数字について「全てのBツーBの取引を行っている免税事業者が全面的に課税事業者になるという前提で機械的に試算がなされたもの」であり、「インボイス制度導入に伴う増収額について、現時点において確たることは申し上げられない」と説明しています(住澤整 財務省主税局長、2023年2月21日 衆議院財務金融委員会)。

出典:参議院予算委員会 会議録(2019年3月26日)、衆議院財務金融委員会 会議録(2019年2月26日)、衆議院財務金融委員会 会議録(2023年2月21日。国会会議録検索システム)

これらは機械的な試算で、実際の増収額ではないと、政府は説明しています。それでも、制度のもとで、これまで納税を免除されていた事業者が課税事業者になれば、税率が1円も上がらなくても、新たに納税する人が生まれます。

タックスレンジャーは、インボイス制度は、小さな事業者の負担を増やす、事実上の増税だと考えます。

2026年11月のいま:経過措置と、小さな事業者に起きていること

令和8年度の税制改正で、インボイスの経過措置が見直されました。取引先が、インボイス発行事業者以外(未登録の事業者)からの仕入れで差し引ける消費税の割合は、次のとおりです。

時期差し引ける割合
〜2026年9月80%
2026年10月〜2028年9月70%
2028年10月〜2030年9月50%
2030年10月〜2031年9月30%
2031年10月〜0%(差し引けない)
  • 2割特例は、2026年9月30日が属する課税期間までで終わりました。
  • インボイス登録で免税事業者から課税事業者になった個人事業者は、2027年分・2028年分の申告で3割特例を使えます(基準期間の課税売上高1,000万円以下などの条件があり、法人は対象外です)。
  • 取引先の控除は、同じ未登録の事業者からの仕入れが年1億円を超える部分には使えません。

実際の影響を調べた民間の調査もあります。

  • 東京商工リサーチ(2024年6月、課税事業者4,799社):免税事業者への新規発注を「原則しない」と答えた企業は20.9%。従来の取引先に対しては、単価の引き下げが2.6%、発注停止が1.6%でした。
  • 日本・東京商工会議所(2025年6〜7月、会員企業2,710者):課税事業者に転換して価格交渉をした事業者(52者)のうち、76.9%が値上げを実現し、値下げは3.8%でした。

どちらも民間団体の調査で、対象や回答数が限られ、調査時点は経過措置の見直し前です。

財務省、公正取引委員会、経済産業省、中小企業庁、国土交通省が連名で出しているQ&A(2026年1月30日改正)は、免税事業者との取引で、買手の優越的地位の濫用や、2026年1月に施行された取適法(改正下請法)の買いたたき等にあたるおそれがある場合を示しています。たとえば、再交渉が形式的で、免税事業者が仕入れ時に支払った消費税額も払えないほど著しく低い価格にする場合や、一方的に取引を停止する場合です。

国会では、2026年10月30日、参政党が、政府の消費減税関連法案の対案として、消費税率を一律5%とし、インボイス制度の廃止を盛り込んだ法案を参議院に提出しました。

出典:国税庁「令和8年度税制改正特集」、東京商工リサーチ(2024年6月18日)、日本・東京商工会議所(2025年9月9日)、財務省ほか「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」、時事通信(2026年10月30日)

経過措置で、急激な負担増はいったん避けられました。それでも、登録するかしないかは制度上は「任意」でも、新規発注を原則しないという企業が2割あるという調査があるように、取引の現場では、自由に選べる状況とは言えないとタックスレンジャーは考えます。

異なる見解:インボイス制度に賛成する立場の主張

インボイス制度や、免税事業者の取り扱いの見直しには、次のような賛成の意見があります。

  • 国民の不信への対応:消費者が払った消費税の一部が国に納められていないように見える状態は、消費税への不信を招く。税制調査会も2002年にそう指摘した。
  • 競争条件の公平:課税事業者は納税し、免税事業者は免除されるため、競争条件に差が出る。
  • 正確な納税:複数税率のもとでは、売手と買手が税率と税額を互いに確認する仕組みが、正確な納税につながる(政府の説明)。
  • 激変緩和:2割特例・3割特例や、取引先の控除の経過措置で、負担は和らげられている。
  • 価格への転嫁:課税事業者になっても、価格に転嫁できれば損をしない。日本・東京商工会議所の調査では、課税転換して価格交渉した事業者の76.9%が値上げを実現した。
  • 消費者が負担する税:国税庁は、消費税は事業者に負担を求めるものではなく、最終的に消費者が負担する間接税だと説明している。事業者が納税することは、事業者の負担増ではない。

これらの意見にも、それぞれの理屈があります。そのうえでタックスレンジャーは、次のように考えます。

  • 疑念への対応は、すでに2004年の免税点の引き下げ(3,000万円から1,000万円)で行われています。さらに小さな事業者に、登録か値下げかの二択を迫る必要があるのでしょうか。
  • 競争条件の差を言うなら、免税事業者が仕入れの消費税を負担し、差し引けないことも、あわせて考えるべきです(シミュレーターで確かめられます)。
  • 転嫁できた事業者が多いという調査は、回答が52者で、新規発注を原則しない企業が約2割という別の調査もあります。転嫁できるかどうかは、取引先との力関係しだいです。
  • 消費税が「最終的に消費者が負担する税」だと言うなら、その負担が、収入の低い人ほど重いという問題も見なければなりません。

判断するのは、読者のあなたです。賛成・反対の両方の意見を知ったうえで、考えてみてください。

いま、私たちにできること

登録を迷っている免税事業者の方

  • 登録は任意で、登録しなくても罰則はありません。
  • 取引先が簡易課税や2割特例を使っている場合は、あなたが未登録でも取引への影響は生じないと考えられる、とQ&Aにあります。まず、取引先がどの方式かを確かめてみましょう。
  • 個人事業者は、登録すると、2026年分は2割特例、2027年分・2028年分は3割特例を使えます。負担の目安は、インボイス制度の記事のシミュレーターで確かめられます。

値下げや取引停止を求められたら

免税事業者であることを理由にした、一方的で著しく低い価格の設定や、取引の停止は、問題となるおそれがあります。ひとりで抱え込まず、相談してください。

  • 公正取引委員会 企業取引課:03-3581-3375
  • 中小企業庁 取引課:03-3501-1732
  • フリーランス・トラブル110番(厚生労働省):0120-532-110(平日9:30〜16:30)
  • インボイスコールセンター(国税庁):0120-205-553(平日9:00〜17:00)

出典:財務省ほか Q&A(別紙)、フリーランス・トラブル110番

発注する側の方へ

取引条件の見直しは、十分に協議したうえで行いましょう。免税事業者であることだけを理由にした、一方的な値下げや取引の停止は、問題になるおそれがあります。値下げの理由は、書面やメールで説明することが望まれます。

声を上げる

インボイス制度をどうするかを最終的に決めるのは、政治です。選挙では、各候補者や政党が、インボイス制度と小さな事業者の負担についてどう考えているかを確かめてください。

※税務の具体的な判断は、税務署や税理士にご相談ください。

理解度チェック!「益税」○×クイズ

ここまでの内容を、クイズでおさらいしましょう。

クイズ

1990年の東京地方裁判所の判決は、事業者は、消費者から受け取った消費税分を過不足なく国に納める義務を、消費者に対して負うと判断した。

クイズ

インボイス制度が始まったあとは、簡易課税制度は使えなくなった。

クイズ

財務大臣は国会で、インボイス制度が必要な理由を「複数税率の下で適正な課税を確保するため」と説明している。

クイズ

前々年の課税売上高が1,000万円以下なら、どんな場合でも消費税の納税義務は免除される。

まとめ:小さな事業者に二択を迫る制度の中止を

  • 「益税」は法律の用語ではなく、免税事業者と簡易課税から生まれるとされる、納税されずに手元に残る分のこと
  • 財務省の説明では、益税の問題が生じるのは、自分の仕入れで払った消費税の負担を超えて価格に上乗せした場合だけ
  • 1990年の判決は、消費者が払う消費税分を「対価の一部としての性格しか有しない」とした
  • 政府は、インボイス制度の目的を「適正な課税の確保」と説明し、益税の解消が本音とは認めていない
  • 簡易課税は、インボイス制度が始まったあとも残っている
  • 2,480億円・161万者の試算は、政府自身が「機械的な試算」と説明している

「益税をなくすため」という言葉は、小さな事業者が悪いことをしているかのような印象を与えます。しかし、事実を確かめると、そう単純な話ではありません。

税は、国民を幸せにするためにあるはずです。タックスレンジャーは、小さな事業者に「登録して納税するか、取引条件の悪化を受け入れるか」の二択を迫るインボイス制度の中止を求めます。この制度を変えられるのは、私たち一人ひとりの一票です。そして、この記事が役に立ったら、ぜひシェアして周りの人にも知らせてください。

※この記事の税制・統計は2026年11月6日時点の情報にもとづいています。

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